一茶: 蝶 3/3

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春3032の小蝶に可憐な少女を見るのは僕だけだろうか。文政3年は長女さとが満1歳余りで病死して2年ほど経っているが、彼女の影が付きまとっていた。蝶を観察していると、さとに対する思いが溢れ狂おしくなる。それを地味に狂おしいと表現したのだろう。

蝶になったさとが草庵のなかを舞い彼の腕に止まる。ほとんどの句にさとが重なって映るようだ。老翁は辛かったろうな、淋しかったろうな。孤老は蝶を観察し蝶と語りかけて戯れることで慰められているのだろう。蛙とは理屈で語り、蝶とは情感で接しているとも云えよう。一茶は孤独な人だったのだ。

noふりがな小林一茶発句集春7より
3032気きの毒どくやおれ(己)をした(慕)ふて来くる小こてふ(蝶)
八番日記 政3
3033来くる蝶てふに鼻はなを明あかせるかきね(垣根)哉
八番日記 政3
3034咲中さくなかニ少すこしぢみ(地味)也浅黄あさぎてふ(蝶)
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』「咲中に少しじみなり浅黄蝶」『風間八番』政4 上五「狂ふのも少じミ也浅黄蝶」『梅塵八番』上五「狂ふにも…浅黄蝶」
3035白しろ黄色きいろ蝶てふも組合くみあひしたりけり
風間八番 政3 (異)『一茶句帳』中七下五「蝶もいろどりしたりけり」
3036菅莚すがむしろそれ〳〵蝶てふが汚けがれんぞ
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』下五「けがれんぞ」『だん袋』下五「汚るゝな」
3037屮庵そうあんの棚捜たなさがしする小こてふ(蝶)哉
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』「咲中に少しじみなり浅黄蝶」34
3038蝶てふ寝ねるや屮引くさひきむしる尾しりの松まつ
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』「てふ飛や草引むしる尻の先」
3039はつ(初)蝶てふよこんな莚むしろニ汚けがるゝな
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』上五下五「初蝶や…穢るゝな」
3040引ひきうけ(受)る大盃おほさかづきに小こてふ(蝶)哉
風間八番 政3
3041 扶持米ふちまいや蝶てふなら一ひとツ遊あそぶ程ほど
風間八番 政3 (異)『風間八番』「…一ツあそぶ程」『梅塵八番』中七下五「…ひとつ遊ぶほど」「…一ツあそぶほど」
3042枕まくらする腕かいなニ蝶てふの寝ねたりけり
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』「腕にてふの寝たり鳧」『一茶句帳』中七「腕に蝶々の」
3043まり(毬)唄うたに一いつシヨ(緒)に蝶てふの舞まひニけり
風間八番 政3
3044道連みちづれの蝶てふも一人ひとりやあだち安達原はら
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』中七下五「蝶もひとりやあさぢ原」
3045我後わがあとに付損つきそんじてや帰かへる蝶てふ
風間八番 政3 (異)『梅塵八番』「我跡につき損じてや帰る鴈」『一茶句帳』「我迹につき損してや帰る蝶」
3046浅黄あさぎてふ(蝶)あれバ浅黄あさぎの櫻さくら哉
梅塵八番 政4
3047石いしなごの玉たまにまつはる小蝶こてふ哉
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』下五「小てふ哉」『文政句帖』(政6) 中七下五「玉下通る小てふ哉」
3048う(浮)かるゝもうちハ(内輪)なりけり浅黄あさぎ蝶てふ
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』中七「内輪なりけり」
3049生うまれで(出)ゝ蝶てふは遊あそぶを仕事しごと哉
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』上五中七「生れ出て蝶は遊ぶを」 (出)『発句集続篇』
3050おとなしや蝶てふも浅黄あさぎの出立いでたちは
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』下五「出立ハ」
3051欠椀かけわんが流ながれても行ゆく小蝶こてふ哉
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』中七下五「…行小てふ哉」
3052狂くるふのも少すこしじミ(地味)也浅黄あさぎ蝶てふ
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』上五「狂ふにも少し…」
3053こつそりとして遊あそぶなり浅黄あさぎ蝶てふ
梅塵八番 政4 (異)『風間八番』「こつそり〳〵あそぶ也浅黄蝶」
3054 参詣さんけいのつむり(頭)かぞ(数)へる小蝶こてふ哉
八番日記 政4
3055 善ぜんの綱つなしつかり蝶てふがすが(縋)りけり
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』中七「…蝶の」
3056 蝶てふ折をり〳〵頭痛づつうをなめ(舐)て呉くれる也
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』下五「くれる也」
3057 蝶てふ書かけバてふ(蝶)がと(止)まるや画ゑの具ぐ皿ざら
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』「蝶書けバ蝶がとまるや絵の具皿」 (出)『浅黄空』前書き「画工春甫家」『自筆本』
3058 蝶てふま(舞)ふや馬うまの下腹したはらともし(知)らで
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』上五「蝶舞ふや」
3059 蝶てふまふやしやしやんさ馬うまの下腹したはらに
風間八番 政4
3060 蝶てふ見みよや親子おやこ三人さんにん寝ねてくら(暮)す
八番日記 政4
3061 寝ね仲間なかまに我われも這入はひるぞ野辺のべの蝶てふ
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』中七「我も這入ぞ」
3062 寝並ねならんで小蝶こてふと猫ねこと和尚をしやう哉
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』中七「寐並んで」
3063 野のばくち(博奕)の銭ぜにの中なかより小蝶こてふ哉
八番日記 政4
3064 風ふろ(呂)水みづの小川をがはへ出でたり飛とぶ小蝶こてふ
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』下五「飛胡蝶」
3065 宿引やどひきが鬮くじの邪魔じやまする小蝶こてふ哉
八番日記 政4 (出)『自筆本』(異)『浅黄空』上五「宿引の」
3066 湯ゆの中なかのつむりや蝶てふの一休ひとやすみ
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』前書き 「裸湯」 中七「つぶりや蝶のひと休」
3067 世よの中なかを浅あさき心こころやアサギ(浅黄)てふ(蝶)
風間八番 政4 (異)『梅塵八番』中七「浅黄心や浅黄てふ」
3068 穴あなのおく案内あないがましき小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政5 (異)『文政句帖』政5 中七「見とゞけて出る」
3069 負おぶさつて蝶てふもぜん(善)光寺くわうじ参まゐりかな
文政句帖 政5
3070 笠取かさとつて見みても寝ねてゐる小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政5
3071 菓子くわし盆ぼんを辷すべりおちたる小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政5
3072 狂くるへてふ(蝶)狂くるつて腹はらのゐる*ならば
文政句帖 政5 (異)『文政句帖』政6『浅黄空』『自筆本』真蹟 中七「くるふて腹が」 *激した感情が静まる
3073 蝶てふ〳〵のおつけい晴はれた夫婦めをと哉
文政句帖 政5
3074 蝶てふとぶ(飛)や石いしの上うへなる笠かさ着物きもの
文政句帖 政5
3075 根ねの糞くそをばひ(奪)あふ(合)小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政5
3076 野の談義だんぎをついととり(取)まく(巻)小蝶こてふ哉
文政句帖 政5
3077 人穴ひとあなを見みとゞけニ入いる小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政5
3078 浅黄あさぎ蝶てふアサギ(浅黄)頭巾づきんの世よ也けり
文政句帖 政6 (出)『だん袋』『発句鈔追加』
3079 出舟いでふねニから(唐)一見いつけんの小こてふ(蝶)かな
文政句帖 政6
3080 御座敷おざしきの隅すみからすミ(隅)へ小こてふ(蝶)
文政句帖 政6 (出)『だん袋』『発句鈔追加』
3081 籠かごの鳥とり蝶てふをうらや(羨)む目めつ(付)き哉
文政句帖 政6 (出)『だん袋』『発句鈔追加』
3082 菓子盆くわしぼんに山盛やまもりにつ(付)く小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政6
3083 菓子盆くわしぼんの足たらぬ所ところへ小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政6 (出)『だん袋』『発句鈔追加』
3084 菓子盆くわしぼんやはし(箸)の先さきよりとぶ(飛)小こてふ(蝶)
文政句帖 政6
3085 艸くさの蝶てふ何なにをすね(拗)るぞ小一日こいちにち
文政句帖 政6
3086 蝶てふ[〳〵]ニ立たてとは吹ふかざりしたばこ(煙草)哉
文政句帖 政6
3087 蝶てふとぶ(飛)や兒ちご這はひつけばつけば又また
文政句帖 政6
3088 蝶てふ一ひとツ仲間なかまぬけ(抜)してすね(拗)るかよ
文政句帖 政6
3089 ちり(塵)ひぢ(泥)の山やまより上うへへ小こてふ(蝶)かな
文政句帖 政6
3090 とが(咎)人びとを打うつ手てニすが(縋)る小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政6
3091 とぶ(飛)や蝶てふひら〳〵金こんピラ(毘羅)大権現だいごんげん
文政句帖 政6
3092湯ゆの中なかや首くびから首くびへとぶ(飛)小こてふ(蝶)
文政句帖 政6 (異)『文政句帖』政7 前書き「田中」 中七「人から人へ」
3093ヲンヒラ〳〵蝶てふも金比羅こんぴら参まゐり哉
文政句帖 政6 (出)『浅黄空』『自筆本』『文政版』
3094おんひら〳〵金比羅こんぴら道みちの小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政7
3095 カワイ男ノ声スレバ
笄かんざしノ蝶てふヲ誘さそフヤトブ(飛)小蝶こてふ
文政句帖 政7 (異)『文政句帖』政8 中七「蝶にひら〳〵」
3096さをじか(牡鹿)や蝶てふを振ふるつて又また眠ねむる
文政句帖 政7
3097酒さけくさ(臭)い芝しばつ原ぱら也とぶ(飛)小てふ(蝶)
文政句帖 政7
3098さらニとし(歳)と(取)らぬは蝶てふの夫婦ふうふ哉
文政句帖 政7
3099棚捜たなさがししてついと行ゆく小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政7
3100蝶てふ[〳〵]やヒラ〳〵紙かみも藪やぶの先さき
文政句帖 政7 (異)『文政句帖』政8 上五「蝶とぶや」
3101薼ちりの身みのちり(薼)より輕かろき小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政7
3102鳥とりさし(刺)の竿さをの邪魔じやまする小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政7
3103はつ(初)蝶てふ[の]つか(摑)ミ込こまれな馬糞まぐそかき(掻)
文政句帖 政7 (異)『発句集続篇』中七下五「摑みこまるゝ馬糞かな」
3104ふご(畚)の[子]や小蝶こてふのせゝる鼻はなの穴あな
文政句帖 政7
3105 振袖ふりそでノモヤウ(紋様)ニシバ(暫)シ小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政7 句帖上段にカタカナ表記
3106 ほつとして壁かべニすが(縋)るや夕ゆふ小こてふ(蝶)
文政句帖 政7
3107 藪陰やぶかげや蝶てふ[と]休やす[む]も他生たしやうの縁えん
文政句帖 政7 (出) 真蹟 前書き「てふといふ娘山路の案内しけるに」 (異)『文政句帖』政8 真蹟 前書き「小娘の山路の案内しける一むら雨のさと降りければ」 上五「木の陰や」『文政版』前書き「てふといふ娘山路の案内しけるに俄雨はら〳〵とふりければ」 上五中七「木の陰やてふと宿るも」
3108 山盛やまもりり[ニ]蝶てふたか(集)りけり犬いぬの椀わん
文政句帖 政7
3109 過去いにしへのやくそく(約束)かよ袖そでニ寝ねる小こてふ(蝶)
文政句帖 政8
3110 菓子盆くわしぼんの菓子くわしをけ(蹴)こぼ(零)す小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政8
3111 小娘の山路の案内しける一むら雨のさと降りければ
木きの陰かげや蝶てふと休やすむも他生たしやうの縁えん
文政句帖 政8
3112香かうせん(煎)をけ(蹴)[こ]ぼ(零)して行ゆく小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政8
3113艸菴さうあんニそれ汚けがされな蝶てふ小蝶こてふ
文政句帖 政8
3114つぐら*子こをこそぐ(擽)り起おこす小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政8 *藁の編み籠
3115つぐら*子この鼻屎はなくそせゝる小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政8 (異)『浅黄空』『自筆本』中七「口ばたなめる」 *藁の編み籠
3116湯ゆの滝たきのうら(裏)をひら〳〵小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政8
3117湯ゆの滝たきを上手じやうずニ廻まはる小こてふ(蝶)哉
文政句帖 政8
3118筆ふでの先さきちよこちよこなめよみがな(舐)る小こてふてふ(蝶)哉
文政句帖 政9
3119 田中
湯ゆけぶり(煙)のふは〳〵蝶てふもふはり哉
文政句帖 政9 (出『希杖本』『発句集続篇』
3120門かどにま(舞)へ尻けつやけ(焼)小蝶こてふ又またどこ(何処)へ
自筆本
3121田たの人ひとの内股うちまたくゞるこてふ(小蝶)かな
浅黄空 (出)『自筆本』
3122庭にはのてふ(蝶)子こが這はへばと(飛)びは(這)へばと(飛)ぶ
浅黄空 (異)『文政版』『希杖本』上五「門の蝶」
3123はつ蝶てふや会釈えしやくもなしに床とこの間まへ
浅黄空
3124鞠歌まりうたの真似まねして遊あそぶ小蝶こてふ哉
あつくさ
3125飯炊めしたきもそまつ(粗末)にせぬや蝶てふとま(止)る
浅黄空
3126夕暮ゆうふぐれにがつくりしたよ草くさのてふ(蝶)
浅黄空 (異)『自筆本』 中七「がつくりしたぞ」
3127世よの中なかは蝶てふも朝あさからかせ(稼)ぐ也
浅黄空 (異)『自筆本』下五「がつ〴〵と」

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