七番日記文化10年正月16日晴 遺言ノ家及倉其外籾滞金卅両為引取仙六因不得心明廿七日出立東都御糺所ニ為上訴然所明専寺御坊因乞和延引野尻ニ入の前書きにつづいて、
「夕櫻鉦としもく(撞木)の間(あひ)にちる」という句がある(ふりがな一茶発句集春4474)。
この句は上の前文と合わせ読むと、その意味するところがかなり具体的に見えてくる。その経緯が前文に認められている。大略以下のとおりの意味である。
亡父の遺言に従い家屋や蔵のほかに未納金30両の引き受けを一茶が義弟の仙六に要請した。仙六がこれに応じなかったため、一茶は明27日に東都の御糺所に上訴するべく出発しようとした。ところが、明専寺の僧侶が和解のため期限延長を要請したため一茶は野尻に入った。
このような緊迫した事情のなか一茶は「夕櫻鉦としもくの間にちる」と詠んだのだ。鐘と撞木の隙間を通る花びらというのがいかに稀(まれ)なことであるか容易に想像できよう。作者は漫然として櫻の花びらが散ってゆくのを見ていたわけではないのだ。
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