一茶: 蛙はカハヅだったか

以前、僕は一茶の句における蛙はカエルと読むべきだと考え、蛙のルビをすべてカエルにした。現代人が読む場合、カエルのほうが親しみもあるし理解しやすい。その後、一茶の同時代人はどう読んでいたろう、カワズだったろうかと考えるようになった。参考: 一茶の描く蛙(かへる); 一茶の句にルビを振る難しさ; 一茶: かな表記のかへる・かはづ; 痩がへる(改稿)

そして、岩波文庫の「新訂一茶俳句集」(1990丸山一彦校注)、「一茶父の終焉日記・おらが春」(1992矢羽勝幸校注)、「一茶七番日記」(2003丸山一彦校注)を参照し、これらの校注に従うことにした。一茶が20歳のときに亡くなった蕪村の「俳句集」(1989尾形仂校注)も参照し、蛙のルビがカハヅになっていることを確認した。

下の表はこれらの資料および信濃毎日新聞社「一茶全集第1巻」(1979)をもとに<かはづ>のふりがなが付された蛙またはカナで<かはづ>と記された蛙を示したものである(続く句でふりがなのない場合は先行するルビと同じとみなした)。表左端に縦書き文庫「ふりがな小林一茶発句集」春の部の番号を記し、「新訂一茶俳句集」の句番号を1990の列に示した。

縦書蛙カハズ読み・かな表記<かはづ>1990no
2626 青梅あをうめかけ(掛)かはづ
寛政三紀行 寛3
1
2629よひ(宵)やみ一本いつぽんえのきなく(鳴)かはづ(蛙)
享和句帖 享2
2
2634油火あぶらびうつく(美)しきなく(鳴)かはづ
文化句帖 化1 【1990】
3
2641かたヒザ(膝)月夜つきよ也けり夕蛙ゆふかはづ
文化句帖 化2 【1990】
3544
2663浦人うらびとのおめしうへかはづ(蛙)
文化句帖 化5
5
2664ちる(散)はな口明くちあけまつかはづ(蛙)
文化句帖 化5
6
2669はなびらに舌打したうちしたるかはづ
七番日記 化7
5787
2673 象潟きさがたさくらあびなく(鳴)かはづ
七番日記 化8
6918
2675(斯)ゝるなにをほたへて*なく(鳴)かはづ
七番日記 化9 *ふざける・おどける
7589
2676からさき(唐崎)*のまつ真黒まつくろかはづかな
七番日記 化9 *琵琶湖西岸
10
2679 小便せうべんたきせうぞ鳴蛙なくかはづ
七番日記 化9
78011
2682どちむくよろずきちとやなく(鳴)かはづ
七番日記 化9
12
2683 迯足にげあし尿しとたれ(垂)ながら鳴蛙なくかはづ
七番日記 化9
79513
2686 ふき片足かたあしかけ(掛)鳴蛙なくかはづ
七番日記 化9
79614
2690ゆふ不二ふじけつならべてなく(鳴)かはづ
七番日記 化9
77915
2691 浅艸あさくさ不二ふじ*をふまへてなく(鳴)かはづ
七番日記 化10
87916
2694かはがり(狩)おほ続松ついまつ*をなく(鳴)かはづ
七番日記 化10 *夜松明の火に集まる魚を捕る
17
2697ちる(散)はなあごならべるかはづ
七番日記 化10
18
2700 疱瘡はうさうさんだらぼし(桟俵法師)*へかはづ哉 七番日記 化1090619
2701 むき〳〵にかはづいとこ(従兄弟)はとこ(再従兄弟)
七番日記 化10
88820
2703 木母寺もくぼじはな敷寝しきねかはづ
七番日記 化10
88721
2704 いうぜん(悠然)としてやまかはづ哉 七番日記 化1088922
2710菜畠なばたけつまこもり(籠)鳴蛙なくかはづ
七番日記 化11 (出)『発句鈔追加』
106423
2712我一人われひとりさめたりかほかはづ
七番日記 化11
24
2713 御地蔵おぢざうたまかはづかな
七番日記 化12
25
2716ちる(散)うめをざぶりとあびなく(鳴)かはづ
七番日記 化12
26
2717天下てんか泰平たいへい居並ゐならかはづかな
七番日記 化12
27
2718ひとはくやうにすわつかはづ
七番日記 化12
『自筆本』「…所存か口を明く蛙」
28
2719目出度めでたさけぶりそびえてなくかはづ
七番日記 化12
29
2723 車座くるまざ居直ゐなほりてかはづ
七番日記 化13
128130
2726西行さいぎやうのやうにすわつ鳴蛙なくかはづ
七番日記 化13
31
2733同音どうおんくちあけたるかはづかな
七番日記 化13
32
2734a永の日に口明きくらすかはづかな
発句鈔追加
33
2742山吹やまぶきまづ御先おさきへととぶ(跳)かはづ
七番日記 化13
『浅黄空』前書き「深川芭蕉庵の跡拝見して」 上五「古池や」
126934
2746足下あしもとつきよ〳〵鳴蛙なくかはづ
七番日記 政1年2月 「かはづ」→「かへる」
35
2748菴崎いほざきかめざる*になく(鳴)かはづ
七番日記 政1 「かはづ」→「かへる」 *亀の甲に似た形の笊
36
2754a名のるかや是より田子のかはづぞと
七番日記 政1
37
2756ふきひつかぶ(被)りつゝ鳴蛙なくかはづ
七番日記 政1
38
2757のり(乗)こえはね(跳)こえ鳴蛙なくかはづ
七番日記 政1
39
2758弁天べんてん御前おまへならかはづ
七番日記 政1
40
2760ゆふ不二ふじ[に]かけ(掛)鳴蛙なくかはづ
七番日記 政1
41
2761 おれとして白眼にらめくら(競)するかはづかな
梅塵八番 政2
152842
2767 たふかげむしろかす(掠)りてなく(鳴)かはづ
風間八番 政2
152943
2769木母寺もくぼじかね孝行かうかうかはづ
風間八番 政2
44
2771江戸川えどがはかはづきく(聞)さし(差)出口でぐち
風間八番 政3
45
2780つめ(詰)びらき(開)する㒵付かほつきカハヅ
八番日記 政4
46
2782あめふろやりふろともなくかはづ
文政句帖 政5
47
2807吉原よしはらさはぎ(騒)すぎなくかはづ
文政句帖 政7
48
2808 じつとしてうまかがるゝかはづ
文政句帖 政8
190949
2816 いまひと喧嘩げんくわしてなくかはづ
希杖本
50
2818 大榎おほえのき小楯こだてとつなくかはづ
希杖本
51
2820御社おやしろへじくなんでるかはづ哉
浅黄空
52
2824うしかうべすわ(坐)るかはづかな
発句鈔追加
53
3389 なくかはづみぞのなのはなさきにけり 七番日記 化978154

参照資料のいずれかでルビを<かへる>としているのは、これまでに確認した限り次の3句しかない。春2741については一茶の自筆本で「痩かへる」となっていることが知られている。なお、痩蛙は雨蛙ではなく蟇蛙のようである。

縦書<かへる>ルビが振られている句
春2741痩蛙やせがへるまけるな一茶これあり
七番日記 化13
夏2073ばかがへるすこたんいふ夕涼ゆふすずみ 
七番日記 化13
夏4499ひとたらかへるになれよひやうり
七番日記 化10、志多良 化10
Drawn by katsushika hokusai

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