Flies observed by Issa

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一茶(1763-1828)発句集夏の部蠅はえの項には年代順に95句が載っています。なぜ彼はルーペで覗くように蠅を観察し、そこに何を見たのでしょうか。以下、〳〵は2音以上の繰り返し記号で、縦書きで読むとその意味がよく理解できます。→ 一茶発句集夏の部

 …あはれおのれ命に替へて一度はすこやかなる父にして見まほしくたうべたきと[の]給ふもあしかりなんは戒めしが今は耆婆ぎば遍鵲へんじやく(注: ギバは古代インド、ヘンジャクは古代中国の名医)が洒落しやれもとゞかざらん諸天善神の力も及ばざらんと只念仏申より外にたのみはな[か]りき
3401 寝ねすがたの蠅はへ追おふもけふがかぎり哉 終焉日記 享1
3402 蠅はへ一ひとつ打うつては山やまを見みたりけり 享和句帖 享3
3403 起おきて見みよ蠅はへ出でぬ前さきの不二ふじの山やま 文化句帖 化2
3404 蠅はへのもち蝶てふから先さき[に]来きたりけり 文化句帖 化2
3405 庵いほ[の]蠅はへ何なにをうろ〳〵長ながらふる 文化句帖 化3
3406 かつしかや蠅はへを打うち〳〵松まつを友とも 文化句帖 化3
3407 蠅打はへうちてけふも聞きく也山やまの鐘かね 文化句帖 化3
3408 蠅打はへうつにけふもひつじの歩あゆみ哉 文化句帖 化3
3409 蠅打はへうつや友ともとなりぬる峰みねの松まつ 文化句帖 化3
3410 蠅はへ飛とんで畳たたみにうつる楓かへで哉 文化句帖 化3
3411 もちの蠅はへ楓かへでのあらしかゝる哉 文化句帖 化3
3412 蠅打はへうちに敲たゝかれ玉たまふ仏ほとけ哉 文化句帖 化5
3413 蠅はへ負おふや花はななでしこに及およぶ迄まで 文化句帖 化5
3414 帰かへれ蠅はへ[庵いほ]は何なんなと草くさの咲さく 七番日記 化10
3415 さわぐなら外そとがましぞよ庵いほ[の]蠅はへ 七番日記 化10 (出)『志多良』『句稿消息』
3416 蠅打はへうちの四五寸しごすん先さきの小こてふ哉 七番日記 化10
3417 [我わが]庵いほの蠅はへをも連つれて帰かへりけり 七番日記 化10
3418 蠅はへとつて口くちが達者たつしやなばかり也 七番日記 化11
3419 蠅はへ一ひとつ打うつてはなむあみ[だ](南無阿弥陀)仏ぶつ哉 七番日記 化11 (出)『句稿消息』『文政版』
3420 我宿わがやどの蠅はへとり猫ねこと諷うたひけり 七番日記 化11 (出)『希杖本』
3421 小童こわらはに打うたるゝ蠅はへもありにけり 七番日記 化12
3422 谷汲たにぐみに蠅はへも納をさめて出でたりけり 七番日記 化12
3423 蠅打はへうちやあみだ(阿弥陀)如来によらいの御天窓おんあたま 七番日記 化12
 …生としいけるもの誰か其恵みうけざる者やはあるべきとことし葉守のかみのまもり始の月十五日といふ日友がき魚淵が日本魂の直き心より垣のうちに新に其神のやしろいとなみてみづからはふり(祝)となりていつき(斎)祭る物からおのれもおなじく笛吹き鼓打てはやしぬ
3424 蠅寺はへでらや神かみの下くだらせ給たまふとて 真蹟 化12
 独楽庵を訪ふに不逢
3425 蠅除はへよけの草くさを釣つるして又またどこへ 七番日記 化12 (出)『栗本雑記五』
3426 飯欠めしかけもそまつにせぬや御代みよの蠅はへ 七番日記 化12
3427 留主るすにするぞ恋こひして遊あそべ庵いほの蠅はへ 七番日記 化12
3428 ことしや世よがよいとや申まをす蠅はへの声こゑ 七番日記 化13
3429 武士さむらひに蠅はへを追おはする御馬おうま哉 七番日記 化13
3430 すりこ木ぎで蠅はへを追おひけりとろゝ汁じる 七番日記 化13
3431 蠅打はへうちに花はなさく草くさも打うたれけり 七番日記 化13
3432 蠅追はへおひを二人ふたり供ぐしけり未亡人びばうじん 七番日記 化13
3433 我われ出でれば又また出でたりけり庵いほの蠅はへ 七番日記 化13 (出)『発句集続篇』
 那古山
3434 おのれ迄まで二世にせ安楽あんらくか笠かさの蠅はへ 七番日記 化14 (出)『発句集続篇』
3435 一日いちにちは蠅はへのきげんも直なほりけり 八番日記 政2
3436 縁えんの蠅はへ手てをす(擦)る所とこを打うたれけり 八番日記 政2
3439 かくれ家がは蠅はへも小勢こぜいでくらしけり 八番日記 政2 (出)『おらが春』
3440 笠かさの蠅はへも[う]けふから[は]江戸者えどものぞ 八番日記 政2
 帰庵
3441 笠かさの蠅はへ我われより先さきへかけ入いりぬ 八番日記 政2 (出)『文政版』『発句集続篇』
3442 しつかりと蠅はへもおぶさる九十川くじふがは 八番日記 政2
3443 ぬり盆ぼんにころりと蠅はへの辷すべりけり 八番日記 政2
3444 蠅はへ打うてば蝉せみもこそ〳〵去さりにけり 八番日記 政2
3445 蠅はへはらふのもなぐさみや子この寝顔ねがほ 八番日記 政2
3446 人ひと一人ひとり蠅はへも一ひとつや大座敷おほざしき 八番日記 政2
3447 古郷ふるさとは蠅はへすら人ひとをさしにけり 八番日記 政2
3448 疫病神やくびやうがみ蠅はへもお(負)はせて流ながしけり 八番日記 政2
3449 世よがよくばも一ひとつ留とまれ飯めしの蠅はへ 八番日記 政2 (出)『おらが春』『文政版』『年籠集』
3450 草くさの葉はや世よ[の]中なかよしと蠅はへさわぐ 発句題叢 政2
3451 長生ながいきの蠅はへよ蚤のみ蚊かよ貧乏村びんぼむら 八番日記 政3 (出)『だん袋』
3452 雨止あめやむぞ立たつて行ゆけ〳〵笠かさの蠅はへ 八番日記 政4
3453 老牛おいうしも蠅はへはらふ尾をは持もち[に]けり 八番日記 政4
3454 老おいの手てや蠅はへを打うつさへ逃にげた迹あと 八番日記 政4
3455 おれとして須磨すま一見いつけんか笠かさの蠅はへ 八番日記 政4
3456 口明くちあけて蠅はへを追おふ也門かどの犬いぬ 八番日記 政4
3457 そり(剃)立たてのつぶり(頭)を蠅はへに踏ふまれけり 八番日記 政4
3458 出始ではじめの蠅はへやしぶ〳〵這はふ畳たゝみ 八番日記 政4
3459 堂だうの蠅はへ数珠じゆずする人ひとの手てをまねる 八番日記 政4
3460 初蠅はつばへや客かくより先さきへ青あおだゝみ 八番日記 政4
3461 群蠅むればへを口くちで追おひけり門かどの犬いぬ 八番日記 政4
3462 群蠅むればへの逃にげた迹あと打うつ皺手しわで哉 八番日記 政4
3463 やれ打うつな蠅はへが手てをすり足あしをする 梅塵八番 政4 (出)『文政版』『鶴巣日記後篇』真蹟
3464 青畳あおだたみ音をとして蠅はへのとびにけり 文政句帖 政5
3465 阿房猫あはうねこ蠅はへをとるのが仕事しごと哉 文政句帖 政5
3466 打うて〳〵と逃のがれて笑わらふ蠅はへの声こゑ 文政句帖 政5
3467 とく逃にげよにげよ打うたれなそこの蠅はへ 文政句帖 政5
3468 なぐさみに猫ねこがとる也窓まどの蠅はへ 文政句帖 政5
3469 から(唐)紙かみのもやうになるや蠅はへの屎くそ 文政句帖 政6 (出)『発句集続篇』
3470 人有ひとあれば蠅はへあり仏ほとけありにけり 文政句帖 政6
3471 客人まらうどのおきみやげ也門かどの蠅はへ 文政句帖 政6
3472 耳みみたぼに蠅はへが三疋さんびきとまりけり 文政句帖 政6
3473 むれる蠅はへ皺手しわでに何なんの味あじがある 文政句帖 政6
3474 出いでよ蠅はへ野のには酢すい花はな甘あまい花 文政句帖 政7
3475 打うたれても〳〵来くるや膝ひざの蠅はへ 文政句帖 政7
3476 座頭坊ざとうばうや赤椀あかわんで蠅はへ追おひながら 文政句帖 政7
3477 しこつ蠅ばへ火入ひいれの灰はひを又また浴あびる 文政句帖 政7
3478 草庵さうあんにもどれば蠅はへももどりけり 文政句帖 政7
3479 点てん一ひとつ蠅はへが打うちたる手紙てがみかな 文政句帖 政7
3480 鶏にはとりが下手へたにつむ也もち(餅)の蠅はへ 文政句帖 政7
3481 塗盆ぬりぼんを蠅はへが雪隠せつちんにしたりけり 文政句帖 政7
3482 蠅はへの替かはりにたゝかるゝ畳たたみ哉 文政句帖 政7
3483 蠅はへの身みも希ねがひありてや灰浴はひあびる 文政句帖 政7
3484 蠅はへよけの羽織はをりかぶつて泣子なくこ哉 文政句帖 政7
3485 美女びぢよに蠅はへ追おはせながらや寝ねる入道にふだう 文政句帖 政7
3486 豊年はうねんの声こゑを上あげけり草くさの蠅はへ 文政句帖 政7
3487 まめ人びとの人ひとの頭つぶりの蠅はへを追おふ 文政句帖 政7
3488 老僧らうそうの伊達だてに持もつかよ蠅はへはらひ 文政句帖 政7
3489 我家わがいへへもどりて居ゐるや門かどの蠅はへ 文政句帖 政7
3490 くれておく飯めし[に]かまはず宿やどの蠅はへ 文政句帖 政8
3491 僧正そうじやうの頭つぶりの上うへや蠅はへつるむ 文政句帖 政8
3492 無常むじやう鐘がね蠅はへ虫むしめらもよつくきけ 文政句帖 政8
3493 山やまおく[は]茸きのこも蠅はへを殺ころす也 文政句帖 政8
3494 草くさの葉はや世よの中なかよしと蠅はへさわぐ 嘉永版 (出)『発句鈔追加』『希杖本』
3495 田たがよいぞ〳〵とや蠅はへさわぐ 希杖本

縦書き文庫一茶発句集夏の部(7)の冒頭部分から転載しました。一茶は蠅の姿態や動きを観察しながら、そこに彼自身を含む人々の生態と世間を見ていたのでしょう。だからこそ、その観察は微細に入り、あるときは批判し、またあるときは愛情を注いで見つめられたのだろうと思います。

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