読書ノート2023-24

縦書き文庫に載せている記憶のかけら「個人史の試み」に、2023年と2024年の読書歴を書き足した。

2023年
貴族仏教に覆われた現世の脆さ
與謝野晶子訳源氏物語を通して見えてくるのはきらびやかな宮廷世界からはほど遠い。後世の歴史家が護国仏教と呼び多くの人びとが渇仰するかぐや姫伝説の世界とは何だろうか。畢竟するに貴人たちの領域を守ろうとする、はかない来世願望と野望渦巻く末法世界ではないだろうか。その拠りどころとして西方浄土を渇仰しているかに見えるのである。

2024年
一茶の観察眼がとらえた現世
一茶も西方浄土を信じ弥陀信仰にとらわれているが、現実世界の捉え方はその信仰によって曇らされていない。自己を見失っていない分どこかたくましい。はかない無常観や来世願望に陥っていないからこそ、小動物や植物に感情移入するときも淡々としていて彼らに対するいとおしさにあふれている。

現代人の多くは無宗教派に属すると考えるが、彼らを支えているのは一神教的な天國てんごく幻想、あるいは方向性を見失った浄土幻想の残滓ざんしではないだろうか。そんなばくとした死後の世界観や死生観が無宗教派の人びとを支えているのだ。<てんごく>を諂曲てんごくと置き換えることもできよう。

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