短編「夫婦と老母の日々」(「もうすぐ彼岸はて此岸」を改題)のモデルは世間的には目立たない人々だし、経済的に豊かとはいえないが、どこか充実しているように見える。夫婦で必死に老母を支える姿が何かを訴えているからだ。彼らにとって信仰がいかに大事なことか。いや、彼らだけではない、人として生きるうえで信仰が必要なのかどうか。最重要の問題ではないのか。
儀礼や伝統として捉えられている神道あるいは葬式と墓場の維持運営や観光収入に依存するかに見える仏教が、本来は人々の信仰に拠ることを知るべきだと思う。昨今よく耳にする終活とか人生百年とかいうのは人の生のごく表層しか見ない見方である。人と信仰という基盤に立った見識を身に付ける必要があるのではないか。政治と宗教という枠組みではなく、人間ないし社会と宗教、人と信仰という見方が求められているように思う。

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