豆腐屋のIさん、延び放題のひば垣の奥にあった倉庫のような小屋で内職を続けながら話していたSさん、苦学生のGさん、不動産屋のKさん、支部長のHさん、郵便局の官舎に住んでいたTさん家族、屋敷森の奥のFさん、少年は佳香についてこれらの人たちの家に行き、話しを聞いていたから、家や店の構えとともに記憶している。ほとんど会えなかった人もいる。
少年の目にはみすぼらしい身なりの人が多く、粗末な構えの家に住んでいる人が多かった。大きな家に住んでいたのは屋敷森のFさんぐらいだったが、その人に会った記憶はない。佳香はこれら学会員と親しげに話していた。少年にとって、学会とはこれらの人々のことであり、それ以外の何ものでもなかった。
一時期、少年は社宅の近所の学会員の家に学会の機関誌を配達していた。友人に見られるのを避けるため、夜遅くか早朝暗いうちに回った。街路灯の裸電球を点けたり消したりするのが楽しみだった。