「週刊金曜日」7月23日号の巻頭言で田中優子氏が明解に述べている。保守勢力の一部が主張する「日本の伝統」なるものがいかに浅薄皮相の僻見かがわかる。その一部を引用する。
…日本の夫婦が同姓になったのは明治31年(1898年)である。それまでは夫婦別姓だったので、明治時代の帝国議会議員からは「同姓は日本の伝統に合わない」と反対の声があがった。この時は「選択的」ではないので、選ぶ余地なくすべての夫婦が同姓となった。どうせ言いくるめるなら、せめて「日本の伝統に戻してはならない。明治時代の日本を死守せよ」というべきであろう…
なるほど、と思い、「新聞集成明治編年史」第10巻(東洋問題多難期: 明治30-32年)を読んだ。後の日露戦争へと踏み込んでいく反露ムードが紙面に溢れている。サイトで検索すると、他ならぬ法務省のページが<氏の制度の変遷>について載せていたので、以下に引用する。
- 徳川時代 : 一般に農民・町民には苗字=氏の使用は許されず。
- 明治3年9月19日太政官布告 : 平民に氏の使用が許される。
- 明治8年2月13太政官布告 : 氏の使用が義務化される。
- ※兵籍取調べの必要上,軍から要求されたものといわれる。
- 明治9年3月17日太政官指令 : 妻の氏は「所生ノ氏」(=実家の氏)を用いることとされる(夫婦別氏制)。
- ※明治政府は妻の氏に関して実家の氏を名乗らせることとし,「夫婦別氏」を国民すべてに適用することとした。なお,上記指令にもかかわらず,妻が夫の氏を称することが慣習化していったといわれる。
- 明治31年民法(旧法)成立 : 夫婦は家を同じくすることにより,同じ氏を称することとされる(夫婦同氏制)。
- ※旧民法は「家」の制度を導入し,夫婦の氏について直接規定を置くのではなく,夫婦ともに「家」の氏を称することを通じて同氏になるという考え方を採用した。
- 昭和22年改正民法成立 : 夫婦は婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称することとされる(夫婦同氏制)。
- ※改正民法は旧民法以来の夫婦同氏制の原則を維持しつつ,男女平等の理念に沿って夫婦はその合意により夫又は妻のいずれかの氏を称することができるとした。