
預言カフェという名のコーヒー専門店がある。キリスト教会が運営している。小説で描いたことが明確な形で目の前に現れたかと思った。入口に続く細長い廊下に十数名の人が列を作って待っている。隣接するプレスクールも同じ教会が運営しているようだ。
以下「いつか名もない魚になる」より引用
初夏のころ、ある教会のカウンター席でスマホを操作しながらガラス窓越しに外を見ると、強風が渦巻いて街路樹の枝を激しく揺らしていた。上空には黒々とした雲がすさまじい勢いで飛んでいる。何か不吉なことが起きるかもしれない。でも教会にいる限り心配はないはずだった。無宗教派は誰でも受け入れるのだから。
「いらっしゃいませ、ご入会ですか……かしこまりました……以上でよろしいですか……カードで……タッチお願いします……失礼いたします……ご入会は二年ごとに更新されます」
若い女の司祭が、語頭にアクセントのある異教徒らしい抑揚で改宗者を相手に機械的なやり取りを繰り返している。実に無駄のないやり取りだ。ちなみに、入会するかどうか尋ねるのは、見学だけの人々が少なくないからだ。この同じセリフの繰り返しが耳について記録係は耐えられない。