次の日曜は本試験である。二度目の挑戦となる今回は前年になかった抑鬱感に重く押し付けられる。早くこの重圧から逃れたいが逃れようがない。もともと仕事の延長からという軽い気持ちだったはずが、いつしかそれ自体が目的になった。短編小説という副産物も得たが、試験のためには何の役にも立たないだろう。ただ、どこかで自分を支えてくれているように思う。
部屋に閉じこもって試験勉強をしていると50年余り前の大学受験のころを思い出す。19歳だったはずだ。1年目に失敗し、予備校がいやで独学を選択した僕は深夜か早朝に散歩することを日課にしていた。自宅から1時間ほどのところにあった石神井公園まで歩いて往復した。家では好きなクラシック音楽をよく聴いた。とくにチェンバロとチェロの器楽曲を好んだ。勉強に飽きると好きな文庫本を取り出して読んだ。模擬試験など受けたこともない。だから、今回はI塾という専門塾に通うことを選択したのだ。