小説を書き上げたというのに、どこかすっきりしない日々が続いている。小説を書いた者は死ぬまで書き続けなければならない、そんな圧迫感すら感じる。
小説に限ったことではないだろうが、文章を書くことで自分の考えや感情の揺らぎを他人のそれのように客観できる。70歳にしてまだそんなことを、という声が聞こえてくるが、これは年齢に関係ないことだろう。とにかく、小説を書いて見えてきたことを箇条書きしておこう。
- 父親の転勤で幼少期と高校の一時期を過ごした地方の記憶とそれ以外の大半を過ごした東京郊外での少年時代の記憶の断片
- 通過者意識が形成された三十代後半と習作の執筆 A View of the Valley
- 高校生の僕を仏教世界に誘い込んだ宮澤賢治の詩と母親の信仰
- 十代後半に引かれた在日と隣国への思い、Minjin Lee’s “Pachinko” の客観的な叙述の斬新さ
- 残酷に迫ってくる老い、親しくしていた人々との死別
- 日本社会の変化と日本人の無変質、人々の内部に浸透したテクノロジーと近視眼的な見方の氾濫
- コロナ禍が映しだす日本と世界の現状をどう捉えるかという課題