最後の修正は、目次(1)で「タンゴの曲と波音」としていた第三部の一節だ。ずっと引っかかっていたのだ。「潮騒・なみ・タンゴ」と修正後にプリントして読み返し、最終的には「潮騒とタンゴ」とした。ふつうはこれら二つのものに関係があるとは考えないだろう。
この短編小説は老いや認知症を扱っていることもあって暗く重苦しいムードに覆われていると言われるかもしれない。第二部の終わりから死に関する記述が増えるなか、この修正部分は老人たちが生命の鼓動を感じたくて海辺に行き、タンゴを踊るとしている。
高校生のときオパーリンの生命の起源に触れたこともあり、海好きの僕は潮騒や波の打ち寄せるようすに生命の息吹きを感じる。アルゼンチンタンゴの曲やダンスにはそれに通じるものがある。移民の貧困層から生まれたダンスならはの生命力を感じるのだ。
小説全体にバンドネオンの演奏が通奏低音のように流れている。