小説が伝えようとしたのは、認知症患者がみた日本島の人々の信仰とくらしである。参考までに英語は life and faith of native people of the Japanese islands observed by a person with dementia ぐらいだろうか、自信はないが。
主人公は認知症を自覚し、日本島の人々とその信仰に執拗な関心を抱いているという設定だ。かつて痴呆症と呼ばれ[*]、いま認知症と呼ばれる病気については、昨今のコロナ禍が好例を提供している。
新型コロナの場合、その感染者とされた者は隔離され家族や親しい者からも遠ざけられるが、病気の実態はまだ解明されていない。認知症に対して人々が抱いている不安やある種の蔑視も新型コロナに対するものと大差ないのではないか。
認知症とされた患者だからこそ見える世界がある、普通の人々に見えない領域があるという設定にもとづいてこの小説を書いたように思う。とはいえ、執筆前からそれを明確に意識していたわけではない。執筆が一段落ついて、少し距離を置いて見られるようになったいま、そう思うのである。