新聞、放送の危機は、日本でも韓国と同じ状況のようです。大阪に赴任してから面談した報道機関の幹部たちも、口をそろえて「若者が紙新聞を読んでいない」「広告収入が減り、経営が困難だ」と嘆きます。実は、伝統的メディアの危機は日韓だけでなく、世界的な現象なのです。
新聞記者出身のため、どうしてもメディア関連のニュースや話題に関心が高いのですが、12日付け朝日新聞にニューヨーク・タイムズ(NYT)の発行人、アーサー・グレッグ・サルツバーガー氏*(Arthur Gregg Sulzberger 1980-)の全面インタビュー記事が掲載され、さっそく読みました。
全体が興味深く、とりわけ、以下のテーマが注目されます。それはメディアを脅かす「危険な力」とされた次の三点です。
- 広告収入で支えてきたビジネスモデルの変化(紙媒体からデジタルへ)
- メディアに対する信頼の低下(科学・大学・司法機関など、さまざまな制度に対する信頼も揺らいでいる)
- Facebook、Google などの巨大プラットフォームの登場(報道機関と読者の間に介在するようになった)
ニューヨークタイムズは、デジタル展開をする新聞社なのか、新聞も出すデジタルメディアなのか、という質問に対しては、「すでに、新聞も出すデジタルメディアになったと思う」と、明快に答えています。
組織改変中の編集局の方向については、「何を変えてはいけないのか、守らなければならない価値観は何なのか」が重要だとし、次のように述べました。私はこの点が重要だと思います、「独立した立場から公平、正確に行う独創的で現場主義、専門性の高いジャーナリズムだと考えました。すべての核心はここにあるのです」
また、Facebook などのプラットフォームは、ジャーナリズムを第一に考えていないので、そこに将来をかけるのは危険だと言いつつ、新しい読者と視聴者を開拓するために協力する必要があると述べています。いわば、韓国における洋務運動時代の「中體西用」方式です。
メディアの信頼低下だけでなく、メディアの二極化と、それを助長する権力の問題も指摘しています。韓国のメディア関係者も傾聴に値する話だと思われます。
* AG とよばれる。1980年生まれ。米ロードアイランド・オレゴン州の地方新聞社で記者として勤務後、2009年にニューヨーク・タイムズ社に入社。2018年、一族から6人目の発行人に就任した。[朝日新聞の記事より引用]
同じ記事で僕が注目したのは、編集局の組織改革に関する次の部分です。
「一番力を入れて雇っているのは卓越した記者です。たとえば退役軍人の記者を二人雇いました。米軍はイラクとアフガニスタンで戦っており、退役軍人が増えています。この人たちが抱える事情に迫るには、同じ立場から考えられる人が必要でした。現場重視も進めています。コラムニストの大半はこれまでニューヨークやワシントンに住んでいましたが、最近はオハイオに住む筆者を雇いました」「デジタル時代への対応で大きく変えることができるのは、どう記事を伝えるかです。動画やポッドキャストなどの経験が豊富な記者やデザイナーらを雇っています。1日に1回の新聞発行のためのシステムは24時間のデジタルニュース時代にそぐわないのです」
参考までに、現在、NYTの紙媒体の新聞読者は100万人、デジタルだけの有料読者が急伸中で300万人近いそうです。
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