실제[失題]의 비밀(上)

第1回

 ナレーター:詩には風景があります。それぞれの詩にどんな風景があるのか想像してみると、その詩の姿がはっきりと浮かび上がってまいります。今回のハングルの詩はどんな風景のどんな詩なのでしょうか。

独断と偏見でお馴染みの歌樽先生が詩のある風景の現場にすでに到着なさっているようです。では、現地の詩子アナウンサーを呼んでみましょう。詩子アナ、現地の模様はいかがでしょうか。

詩子アナ:はい、こちら詩子です。ずいぶん遠くまでやって来ましたが、現地はそろそろ夕日が沈もうとしています。観光客がどんどん丘に登って行きます。潮風が下から吹いてきます。子供達も手を引かれて登っていきます。船も港に帰ってきています。では、歌樽先生に伺ってみましょう。今回の詩のキーとなるハングルはずばり何でしょうか。

歌樽先生:ずばーり、、、難しいですね。

詩子アナ:そこのところを何とかお願いします。

歌樽先生:今回ばかりは何ともならないのです。

詩子アナ:ということは「キーとなるハングル」の指摘が難しいということですか。

歌樽先生:その通りです。

詩子アナ:えっ? 素月は「ハングル」で詩を書いていますよね。

歌樽先生:詩はもちろんハングルで書いていますよ。

詩子アナ:それなら、何とか「ずばーり」お願いしたいのですが、、、

歌樽先生:それが、実は一筋縄では行かないんです。

詩子アナ:それは大変ですね。

歌樽先生:その理由を考えてみてください。

詩子アナ:「キーとなるハングルが多すぎる」

歌樽先生:そうではありません。

詩子アナ:「キーとなるハングルが飛び石連休状態である」

歌樽先生:そうではありません。

詩子アナ:「すべてが関連している蜘蛛の巣状態である」

歌樽先生:そうではありません。

詩子アナ:「キーとなるハングルが行間にある」

歌樽先生:なかなか鋭い所を突いてきましたね。行間には文字がありませんよ。では、まずこの詩のタイトルから入りましょう。

第1問:この詩のタイトルは次の内どれでしょうか。

1)無題  2)有題  3)失題  4)兼題

詩子アナ:これは以前どこかで見たような気がしますが。

歌樽先生:金素月の詩で同じタイトルを持つ詩が「제비:つばめ」という詩ともう一つありましたね。

詩子アナ:思い出しました。

第1問:答は3)失題です。

確か、二つの内の一つはこんな詩でしたね。

  • 동무들 보십시오 해가 집니다  みんなごらんよ 陽が沈む
  • 해지고 오늘날은 가노랍나다   沈めば 今日とお別れさ
  • 웃옷을 잽시빨리 입으십시오   何か羽織って さあ早く
  • 우리도 산마루로 올라갑니다   僕らもお山に 登ろうよ

もう一つの方の失題はどんな詩ですか。

歌樽先生:これがなかなか手ごわいんです。失題という詩にはいろんな秘密が隠されているのですが、それについてこれからゆっくり考えてみることにしましょう。

詩子アナ:はい。ところで、「동무들 보십시오 해가 집니다 (直訳:同務たちごらんください。陽が沈みます)」ということは、夕日を詠った詩ですか。

歌樽先生:そうですね。そういえば、当時ちょうど「夕日」という童謡が大流行していましたね。

第2問:その当時流行っていた「夕日」という童謡はいつごろ作られたでしょうか。

1)1920年頃   2)1930年頃   3)1940年頃   4)1950年頃

第2回

 詩子アナ:「夕日」の歌といえば「ぎんぎんぎらぎら」のあの歌ですか。

歌樽先生:そうです。「ぎんぎんぎらぎら夕日がしずむ。ぎんぎんぎらぎら日がしずむ。」

作詞は葛原しげる、 作曲は室崎琴月です。

詩子アナ:この歌は1番だけなら、私、歌えますよ。

https://www.uta-net.com/movie/46401/

歌樽先生:よく知っていますね。

詩子アナ:幼稚園で習いましたから。金素月と何かしら関連があるとしたらという仮定のもとに考えてみます。素月の生きていたのは、1902~1934年ですから、1)か2)ですね。

歌樽先生:なかなか鋭い推測ですね。

詩子アナ:いえいえ、これで鋭いといわれては困ります。素月の詩集『진달래꽃』が出版されたのは1925年ですから、何かしら関連付けるのであれば、それ以前ということになりますね。

第2問:答は1)1920年頃です。

歌樽先生:正解です。「夕日」という歌と当時の様子がわかる記事がありますよ。レコードの発売は1921年です。

https://mainichi.jpnews.info/post-919/

詩子アナ:関東大震災はその2年後ですから、復興にも明るい歌が求められたのでしょうね。ところで、素月と関東大震災は何か関係があるのですか。

歌樽先生:では、そのあたりを見ておきましょう。

第3問:関東大震災の時、素月はどこにいたでしょうか。

1)ソウル 2)平安北道の郭山(素月の故郷) 3)大阪 4)東京

詩子アナ:関東大震災は1923年ですから、素月が21歳のときですね。素月は日本で学んだことがあるようですから、分かりました。

第3問:答は4)の東京です。

歌樽先生:そうですね。地震のあった時は東京にいましたね。

詩子アナ:関東大震災を経験したのですね。地震のニュースは素月の故郷にも伝わったのですか。

歌樽先生:大震災でしたからすぐに伝わったようですよ。ところが、大変なことが起こりました。

第4問:その大変なこととはなんでしょうか。

  • 1)素月の下宿の家賃が3倍になった。 
  • 2)素月は大阪に避難した。 
  • 3)震災死亡者欄に素月の本名の「김정식」が載った。
  • 4)素月が官憲に捕まった。

詩子アナ:どれであっても心配ですね。素月は無事だったのですか。

歌樽先生:無事でした。素月から無事だという手紙が実家に届いています。

詩子アナ:ニュースだと3)か4)で、個人の話なら1)か2)ということでしょうか。ショッキングなのは3)か4)でしょうね。官憲に捕まったとしてもすぐには連絡がこないでしょうから、分かりました。

第4問:答は3)の震災死亡者欄に素月の本名の「김정식」が載った、です。

歌樽先生:正解です。素月の叔母の桂熙永さんは『私が育てた素月』(章文閣:1969)の中で、素月のお母さんは毎日泣いていて、素月からの手紙が届いても、息子は亡くなったとばかり思って、しばらく開封もせず、喜ぶこともなかったと書いています。

第5問:では、だれが開封したのでしょうか。。

1)父親 2)母親 3)お祖父さん 4)叔母さん

詩子アナ:父親か母親かというのが普通だと思われますが、、、

歌樽先生:父親は素月が小さいころ、日本人の鉄道敷設工事人夫から暴行を受け、それ以来精神に異常をきたしたと言われています。

詩子アナ:これは、尋常ではないことが起きましたね。開封したのが父親でも母親でもないとすると、お祖父さんか叔母さんという訳ですね。金素月の家庭環境を知っておくことも詩の理解には必要でしょうね。

歌樽先生:そうですね。当時の時代背景の理解も必要ですよ。

第3回

 詩子アナ:そうなんですね。誰が開封したかということですが、叔母さんではないでしょうから、

第5問:答は3)のお祖父さん、だと思われます。  

歌樽先生:正解です。お祖父さんは素月が幼いころとてもかわいがっていたようですしね。

詩子アナ:あの、そろそろ「キーとなるハングル」をいただければ嬉しいのですが。

歌樽先生:ハングルではありませんが、「キーとなる語」をこのあたりで挙げておきましょう。

詩子アナ:はい、そのほうが助かります。

歌樽先生:「キーとなる語」は「失題」です。

詩子アナ:「失題」はこの詩のタイトルですよね。先ほど、第1問でやりましたが、これがキーとなるんですか。

歌樽先生:そうですね。「キー」といえばこれでしょう。この詩は謎が多くて、実はどこから話せばいいのか分からないほどなんです。

詩子アナ:金素月は謎をかけるのが上手だったんですか。

歌樽先生:謎かけが上手とか下手とかいう問題ではないのですが、ではこの謎を考えてみましょう。

第6問:「失題」というタイトルの2つのうち、初めの方の詩は詩集『진달래꽃(つつじの花)』の中の何番目の詩でしょうか。

詩子アナ:目次を見てみます。あの「失題」、ありました。

第6問:「7番目」です。1「먼後日」、2「풀따기」、3「바다」、4「山위에서」、5「옛이야기」、6「님의노래」、7「失題」となっています。綴り方が今とは違っていますが。

[図]失題03

歌樽先生:4番目のタイトルは目次では「山우헤서」となっていますが、本文では「山우헤」とだけ書いてあって「서」がありません。ところで、この「7番目」にはどんな意味があるでしょうか?

詩子アナ:「7番目」の意味ですか? ラッキーセブンということはないですよね。

歌樽先生:それはありませんね。ラッキーセブンといえば野球ですね。

詩子アナ:当時、野球はあったのですか。

歌樽先生:ありましたね。正岡子規は野球が好きで、広めていたようです。子規は1902年に亡くなっています。関東大震災の21年前ですね。上野公園の「正岡子規記念球場」に「春風やまりを投げたき草の原」という句碑があります。

詩子アナ:そんなに昔から野球があったとは知りませんでした。

歌樽先生:詩子アナは数学が得意でしたっけ。

詩子アナ:得意というわけではありませんが。

歌樽先生:素月は数学が得意でしたか?

詩子アナ:得意だったように記憶していますが。

歌樽先生:以前、成績表を見たことがありましたね。

詩子アナ:はい。どの科目もかなり優秀だったようですが。

4回

歌樽先生:素月の成績表の写しで確認しておきましょう。

詩子アナ:姓名は「金廷湜」、住所は平北道(平安北道)の定州郭山面で、番地がありません。

[図]

歌樽先生:生年月日の欄には明治33年とだけ書かれてありますね。素月は子規の亡くなった1902年の9月に生まれていますから、年号で言えば「明治35年」でなければならないのです。

詩子アナ:2年の差って大きいんじゃないんですか。

歌樽先生:大きいといえば大きいのですが、2-3年の違いは珍しくありません。出生届けが遅れたり、届け出をだすのを忘れたり、誤記したり、いろんな理由があったようですね。

詩子アナ:そういう時代だったのですね。数学は「幾何」が90点、「三角」98点ということですから、とてもよくできていましたね。

歌樽先生:こんな点数が取れれば文句ありませんね。

詩子アナ:この点数には驚きです。「朝鮮語及漢文」が73点で意外と低いですね。

歌樽先生:でも、国語の「漢文講読」は98点ですよ。国語というのは日本語のことですから、日本式の「漢文講読」の方がよく身についていたのでしょう。

詩子アナ:数学と「7番目」というのは何か関係があるのですか。

歌樽先生:数学の知識と関連がありますね。では、それを問題にしましょう。

第7問:その数学の知識とは次の内、どれでしょうか。

1)算術 2)代数 3)幾何 4)三角関数

詩子アナ:数学はもうずいぶん前に習ったことなので、幾何も代数も微分も積分も集合も、あとなにがありましたっけ。ああ、確率というのがありましたね。ともかくすべて完璧といっていいほど忘れてしまっています。

歌樽先生:それでも科目名をよく覚えていますね。これはただものではないと見ましたが。

詩子アナ:いえいえ、そんなことはありません。

歌樽先生:三角関数はどうですか?

詩子アナ:「サイン、コサイン、単位ゲット!」。

歌樽先生:タンジェントではなくて、「単位ゲット」ですか。意味がよく分かりませんが。

詩子アナ:三角関数がよくできれば単位がもらえるというギャグです。

歌樽先生:そんなギャグが流行っているんですか?

詩子アナ:「サイン、コサイン、コンセント!」とか「サイン、コサイン、プレゼント!」とか。

歌樽先生:もうついていけません。

第5回

詩子アナ:素月は文系の方だとばかり思っていましたが、理系の勉強もしっかりできたんですね。

歌樽先生:物理の点数は95点、化学98点ですから、文系・理系ともに秀才タイプだったといっていいでしょうね。

[図] 

詩子アナ:目次にあるタイトルの順番の「7番目」だけが対象であれば三角関数とは関係がなさそうですから、まず4)は除外してみます。それから幾何も違うでしょうから、算術か代数ということでしょうか。

歌樽先生:そうですね。「7番目」ということに関してだけ言えば、それほど難しくはありませんから、数学のことを持ち出さなくてもいいような気もします。ただ、素月が数学的な思考には慣れていたようですね。

詩子アナ:「7番目」と数学的思考を結び付ければいいようですね。ということは、この問題、「サイン、コサイン、単位ゲット!」できました。

第7問:答は2)の「代数」です。

歌樽先生:サインとヒントが多すぎましたね。では、「7番目」と第7問の答の「代数」を結び付けてみてください。

詩子アナ:これだけでは、お手上げです。なにかもう一つヒントをいただければありがたいのですが。

歌樽先生:では、ヒントを問題の形で出しましょう。

第8問:「7番目」と最も関連の深いものは次の内どれでしょうか。

1)1910年8月29日 2)1919年2月8日 3)1919年3月1日 4)1923年9月1日

詩子アナ:年月日ですか。1)の「1910年8月29日」は「日韓併合」、3)の「1919年3月1日」は「3.1運動」、4)の「1923年9月1日」は「関東大震災」、2)の「1919年2月8日」は何かありましたね。

歌樽先生:東京で朝鮮の独立を宣言をした日ですね、「宣言書」の内容は今も残っていますよ。

http://www.ayc0208.org/2_8/index.php

詩子アナ:代数が関係するということですから、なにか計算をするんでしょうか。

歌樽先生:そのように考えていくと、答が見つかるでしょう。

詩子アナ:単なる数字合わせという訳ではないということですね。いただきました!

歌樽先生:さすが、詩子アナですね。

第6回

詩子アナ:すばらしいヒントのおかげです。これも「サイン、コサイン、単位ゲット!」

第8問:答は2)の1919年2月8日、です。

歌樽先生:どのように導き出しましたか。

詩子アナ:「n(n+1)/2」という式で、nに「7」を代入すると、

「7×(7+1)/2」= 56/2 → 28、つまり2月8日と一致します。

1+2+3+4+5+6+7=28で、これを月と日にちに分けた訳です。

歌樽先生:なかなか冴えてきましたね。これで、次の秘密に迫ることができますよ。

詩子アナ:えっ!まだ先があるんですか。

歌樽先生:「失題」というタイトルの詩が2つありましたね。

第9問:では、この2つ目の「失題」は目次の中で何番目に当たりますか。

詩子アナ:それは数えればいいだけですから、目次を出して数えてみます。10番目が「마른 江 두덕에서」、20番目が「옌[예]前엔 밋처[미처] 몰낫서요[몰랐어요]」、30番目が「樹芽」で、「失題、失題」その二つ後ろにありました。([ ]の中は綴り字を直したもの)

第9問:「失題」は32番目です。

歌樽先生:では、同じように考えてみましょう。

第10問:「32番目」と最も関連の深いものは次の内どれでしょうか。

  • 1) 1910年8月29日 
  • 2) 1919年2月8日 
  • 3) 1919年3月1日 
  • 4) 1923年9月1日

詩子アナ:こういう仕掛けがあったのですか。32という数字は何か掴みどころが見つかりませんね。31番目であれば、3.1運動との関わりということで分かりやすいのですが。

歌樽先生:いろんな風に考えてみてください。

詩子アナ:先ほどの「n(n+1)/2」という式で、nに「32」を代入すると、528ですから、5月28日となりますが、これではありませんね。

歌樽先生:同じ手法であれば、すぐに見破られますからね。

詩子アナ:これも、代数の問題なんでしょうか。

歌樽先生:代数は大好きでしたか。

詩子アナ:ということは代数系ということのようですね。逆に言えば、上の4つのどれかになるようなスマートな方法があるということですね。

歌樽先生:少なくとも素月はそのように考えついたということでしょう。

詩子アナ:あのー、まだ詩の内容に入っていないのですが。

歌樽先生:まずは、この「失題」というタイトルをしっかり見つめましょう。まだ先が長いですから。

詩子アナ:この先がまだあるんですか。

歌樽先生:なにしろ、タイトルを失うくらいですからね。

詩子アナ:あの、しっかりした根拠はないのですが、答は分かりました。どちらも独立運動に関連しています。

歌樽先生:そういう考え方もありますね。では、答を言ってみましょう。

詩子アナ:はい、勘ですが、

第10問:32番目と最も関連の深いのは3)の1919年3月1日です。

歌樽先生:正解です。ではその根拠を見つけてみましょう。

詩子アナ:数学的にですか?

歌樽先生:そうでなければなりませんね。50年後、100年後になってもいいので、誰かが解いてくれることを期待して「失題」というタイトルを付けている訳ですから、基本的には同様の何らかの手法を用いているはずです。

第11問:その手法とは何でしょうか。

詩子アナ:なかなか手強いですね。「失題」にこんな意味があるということをどこかで書いているのですか。

歌樽先生:それはあり得ませんね。そんなことをすればすぐに逮捕されてしまいますからね。

詩子アナ:参りました。

第7回

歌樽先生:いえ、こんなところで止まっていては先に進めませんよ。

詩子アナ:道は遠いようですから、力を入れ直しましょう。

歌樽先生:その意気でやりましょう。いろいろやってみるべきでしょうね。

詩子アナ:ヒントが目の前にあるのに歯がゆいですね。

歌樽先生:では、もう少しヒントを出しましょう。3.1運動の宣言書には本文と公約三章という行動要領のようなものが書かれているのですが、これを作ったのは韓龍雲という僧侶でかつ詩人です。素月とともに韓国で最も愛されている詩人といっていいでしょう。

詩子アナ:分かりました。

第11問:32の約数ですが、自分の数32を除くと、1+2+4+8+16=31となり、この3と1を3月1日に合わせたものと思われます。手法は自分の数を除いた約数の和です。

歌樽先生:大正解です。これで、7番目と32番目に置かれた「失題」の理由がわかりましたが、「失題(실제)」は「実際」とも「実題」とも発音が同じ「실제」なので、実際の気持ちを表したものという解釈をする人もいます。

詩子アナ:当時、数字と関連の深い詩人はいたんですか。

歌樽先生:当時の詩人で数と縁の深かった人ですか。例えば「青ぶどう」という詩で有名な李陸史(이육사)は自分の囚人番号が264だったので、これをペンネームに用いて「2(李:이)6(陸:육)4(史:사)」と名付けました。安東市に立派な「李陸史文学館」があります。

詩子アナ:囚人番号を名前にした人までいたんですね。数字を巧みに使った詩人はいないんですか。

歌樽先生:数字をたくさん使って難解な詩を書いた李箱(이상)は特に有名です。

詩子アナ:「鳥瞰図(조감도)」ではなくて「烏瞰図(오감도)」なんですか?

歌樽先生:「鳥(とり)」ではなく「烏(カラス)」ですね。

詩子アナ:横棒の一本が足りませんね。

歌樽先生:これも李箱が意識して「鳥」の字の棒を一本取り除いたのですが、別の詩の中でこの一本を使っているんです。計算して一本を引いてカラスにしたのですが、当初は「鳥」の誤植と考えた人もいたようですね。

詩子アナ:その一本はどこで使われているのですか。

歌樽先生:李箱の詩集を読めば、比較的容易に見つけることができますよ。

詩子アナ:何か特別な手法があるのですか。

歌樽先生:漢字を利用したやり方なのですが、この手法を使った有名な例を一つ見ておきましょう。

第12問:次の王様は「木八子」になるとすると、次の王様の姓は次のうちどれでしょうか。

1) 金   2) 朴   3) 李  4) 全

詩子アナ:はあ、そうですか。こんな風にするわけですね。

第12問:答は3)の「李」です。「李」は「木+八+子」でできていますから。

歌樽先生:では、関連した質問です。

第13問:漢字の字画を分けたり、合わせたりして遊んだり、占いなどに用いるやり方を何と呼んでいるでしょうか。

1)破字   2)分字   3)合字  4)遊字

第8回

詩子アナ:伝統的な手法なんですね。

歌樽先生:高麗の時代からあったようですから、日本では平安時代の頃からということになりますね。

詩子アナ:ここは勘でやります。

第13問:1)の破字、です。

歌樽先生:理由は?

詩子アナ:破れかぶれ!です。「字画を分けたり、合わせたり」ですから、「分」と「合」は中途半端ですし、「遊」は軽すぎる感じがしました。

歌樽先生:冴えわたっていますね。では、これまでのところを整理する意味で問題を出しましょう。

第14問:「失題」というタイトルを2か所で付けた最大の理由は何でしょうか。

1)趣味で 2)題を忘れて 3)生存戦略上 4)謎々作りで

詩子アナ:「失題」というタイトルを付けること自体がただごとでない気がしてきました。

第14問:答は3)の生存戦略、です

歌樽先生:当時は本当の気持ちをストレートに表すことは難しかった時代でしたからね。

詩子アナ:特に日本の支配に対する反対の意思や民族の独立への思いを表す場合には、そのことを悟られないように細心の注意を払ったんですね。

歌樽先生:「失題」というタイトルを「実際」と結びつける解釈を紹介しましたが、実は「実際」を意識してこの「失題」というタイトルにしたのではないのです。

詩子アナ:「失題」といタイトルの問題はも第7番目と第32番目の意味が分かったところで終わったと思ったのですが、この先があるんですか。

歌樽先生:ええ、この先が少しあります。やや、込み入っていますがね。

詩子アナ:先ほどの「破字」と関連があるのですか。

歌樽先生:するどいところを突いてきましたね。「破字」の手法が巧みに取り入れられています。

詩子アナ:まだ、詩の本文には入れないのですか。

歌樽先生:入れない訳ではないのですが、「失題」というタイトルの方が忙しくて。では、初版本のコピーをちょっと見ておきましょう。

詩子アナ:「失題」というタイトル文字がハングルよりもずっと大きい活字ですね。

歌樽先生:他の詩の場合も漢字のタイトル部分はかなり大きい活字が用いられています。

詩子アナ:「山」だけが本文では漢字で書かれていますね。

歌樽先生:「山」はほとんどが漢字でかかれています。ハングルで「산」と書いてあるのを見つけるのが大変なぐらいです。

詩子アナ:何か整然と書かれているように見えるのですが、実際の山と関連があるのですか。

歌樽先生:そのあたりも考えて行きましょう。

第9回 

詩子アナ:「失題」というタイトルの流れからすると、何かその流れに呼応するものが必要になるという訳ですね。

歌樽先生:そういうことです。すばらしい着想ですね。

詩子アナ:ここで褒められても、先に行く手立てがないんですが。

歌樽先生:ヒントになるかどうか分かりませんが、ここで一部を試訳したものを見ておきましょう。綴り字は今の書き方に直してあります。

동무들 보십시오 해가 집니다    みんなごらんよ 陽が沈む
해 지고 오늘날은 가노랍니다   沈めば 今日とお別れさ
윗옷을 잽시 빨리 입으십시오    何か羽織って さあ早く
우리도 山(산)마루로 올라갑시다  僕らもお山に 登ろうよ

동무들 보십시오 해가 집니다    みんなごらんよ 陽が沈む
세상의 모든 것은 빛이 납니다    どこもかしこも真っ赤っか 
이제는 주춤주춤 어둡습니다     これからだんだん暗くなる
예서 더 저문 때를 밤이랍니다   暮れゆきゃこれはもう夜だ

詩子アナ:「동무」というのは「同志」といった意味ですか?

歌樽先生:友達のことです。気軽に使える言葉でしたが、時代とともに使い方が変わってきましたね。呼びかけに使ったこともありましたが、呼びかけには使わなくなったり、全く使えなくなったりもしましたね。素月が生きていた頃は気軽に使えた時期です。

詩子アナ:友達に「보십시오:御覧ください」「해가 집니다:太陽が沈みます」というのは丁寧すぎて、何か変な気がするのですが。

歌樽先生:みんなの前で演説をしているような感もありますね。そういった何か気になるところがあれば、なんでも構いませんから、仰ってみてください。

詩子アナ:先生に「仰ってみてください」などと言われると、緊張します。この詩が何を呼び掛けているのかが、重要なポイントになると考えていいんですね。

歌樽先生:そのような流れで考えましょう。
第15問:「(  )도 식후경」という諺に入る山の名前は何でしょうか。
1)백두산(白頭山) 2)금강산(金剛山) 3)설악산(雪岳山) 4)한라산(漢拏山)

詩子アナ:これは習いましたので、分かります。
第15問:2) 금강산(金剛山)、です。

歌樽先生:正解ですね。「花より団子」といった意味の諺でよく使われますね。
第16問:では、独立運動で歌われた愛国歌に出てくる山は次の内、どれでしょうか。
1)백두산(白頭山) 2)금강산(金剛山) 3)설악산(雪岳山) 4)한라산(漢拏山)

詩子アナ:歌の初めの部分ですね。映画や演奏会のときによく聞きました。
第16問:1)の 백두산(白頭山)、です。

歌樽先生:正解です。

第17問:3・1独立運動の「宣言書」を書き、かつ白頭山と最も関連の深い人物は誰でしょうか。

1)李光洙 2)韓龍雲 3)崔南善  4)李昇薫

詩子アナ:その「宣言書」はどんな内容なんですか。

歌樽先生:朝鮮の独立を高らかに謳った1919年3月1日の「宣言書」です。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/444640#idx-5

詩子アナ:1919年3月1日の「宣言書」ということは、他にも宣言書があるのですか。

歌樽先生:1919年2月8日の「宣言書」があります。独立への願いに満ちています。
http://www.ayc0208.org/2_8/doc/28_JPN.pdf

第10回

詩子アナ:李光洙、韓龍雲、崔南善、李昇薫は皆独立運動とかかわりのある方のようですね。

歌樽先生:そうですね。みんな逮捕されましたね。

詩子アナ:裁判の記録は残っているんですか。

歌樽先生:裁判記録はもちろん残っていますよ。

詩子アナ:白頭山と最も関連が深い人の特徴は何かありますか。

歌樽先生:その人の雅号の中に「主人」という文字が入っています。

詩子アナ:「破字」のように考えればいいんですね。分かりました。

第17問:3)の崔南善です。「崔」の字の山の下の「隹(ふるとり)」の形をよく見ると、「人偏+主」の形に似ています。

歌樽先生:正解です。「ふるとり」という言葉を久しぶりに聞きましたね。「舊(ふるい)」の字の中の「とり」ですから、これも「破字」的な感覚ですね。この破字がよく分かってきたようですね。崔南善は「六堂(육당)」という雅号が有名ですが、「南嶽主人」という雅号もありますよ、監獄にいましたしね。また、白頭山を踏査して紀行文の『白頭山覲參記(백두산근참기)』を書いています。

詩子アナ:そのほかの人は何をした人ですか。

歌樽先生:李光洙は「2・8宣言書」を書いた人、 韓龍雲は「3・1宣言書」の「公約3章」を書いた人で、詩人でもあります。李昇薫は3・1運動の「宣言書」に署名した33人の内の一人で、金素月の通っていた「五山学校」を建てた人でもあります。

詩子アナ:すごい人たちですね。あの、「失題」との関連がまだよく分かりませんが。

歌樽先生:では、その関連を探してみましょう。

第18問:「失題」と「白頭山」との関連はどこにあるのでしょうか。

詩子アナ:急に本論の中心部分に入ってきて、とまどっていますが。他にヒントはないのですか。

歌樽先生:では、もう一度目次を確認しておきましょう。呉河根先生の『정본 김소월 전집(正本 金素月全集)』(1995 집문당)の目次には詩に番号がふってあるので参考になります。

詩子アナ:7番目の「失題」の前は「님의 노래」、後ろは「님의 말씀」で、どちらも「님」が付いた詩になっていますね。

歌樽先生:面白いところに気が付きましたね。

詩子アナ:あの、32番目の「失題」の上の29番目と30番目の漢字表記に大変なことに気づきました。「萬里城」と「樹芽」なんですが、上から斜め下に「破字」の手法を用いて読むと、ああもう、大変、大変、無茶苦茶大変でーす。

실제[失題]의 비밀(下)へつづく

Shaws and Goolees

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